前回に続き、がんのお看取りは病院か自宅、どちらがいいのか?をお伝えします。
今回は、訪問看護ステーションでターミナルケアの勤務経験のあるリハビリ療法士のわたげが、「在宅での訪問看護ステーションによるお看取り 体験談」について取り上げます。
近年の在宅における看取りの動向
「最後は自宅で」と希望される方が6割いるニーズの高い状況や、社会保障費の観点から、政府としては在宅医療を推進しています。
『自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用したいと回答した者の割合を合わせると、60%
以上の国民が「自宅で療養したい」と回答した』
『また要介護状態になっても、自宅や子供・親族の家での介護を希望する人が4割を超えた』
引用:厚生労働省 在宅医療の最近の動向
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h24_0711_01.pdf
在宅医療の決め手となるのが、「在宅医療に必要な医療・介護サービスを確保できるか?」になります。次にどのような方法でお医者さん探しをしたらよいのか?をご紹介します。
在宅医療(医療・介護サービス)を支える 人 サービス
在宅医療を支える主要な医療・介護職種
在宅での看取りを意識しだしたら、情報収集をしてみましょう。下記の職種の方から探すとスムーズです。
・訪問診療または往診をしてくれる お医者さん。
・健康管理のお手伝いをしてくれる 訪問看護ステーションの看護師さん。
・介護サービスの調整をしてくれる ケアマネージャーさん。
※特にケアマネージャーやソーシャルワーカーは早めに依頼すると、調整の速さが段違いです※
なぜなら、介護・医療サービスの調整を担当してくれるからです。自分でいちから調整すると、大変な時間と労力がかかります。担当ケアマネがいない方は、入院中からソーシャルメディカルワーカーや地域包括支援センターなどに相談してみましょう。
次に、訪問診療または往診をしてくれる お医者さんの探し方は下記のとおりです。
在宅医療をしてくれるお医者さん探し
- かかりつけ医:まずはお世話になったお医者さんに在宅医療をしているか聞いてみます。
- 担当のケアマネージャー:お医者さんや介護サービスを紹介してくれます。
- かかりつけの病院の相談窓口:地域医療連携室のソーシャルメディカルワーカー(社会福祉士)に聞く。
- お住まいの市区町村に設置された地域包括支援センター:ケアマネ紹介や介護サービスの相談をしてくれます。
- インターネット検索
もし、かかりつけ医さんが「在宅診療、訪問診療ができる」とお返事してもらえたら、下記の内容で「がん特有の痛みやターミナルケアの対応ができるか」など確認してみましょう。
在宅診療や訪問診療をしてくれるお医者さんへの確認事項
- がん特有の医療用麻薬や点滴など、必要な薬が処方できるか?
- 24時間365日で緊急時に対応してもらえるか?
- 入院が必要な場合はどの病院と連携しているか?
もし、がんのターミナルケアが難しいとお返事あった場合は、日本在宅ホスピス協会のHPhttps://n-hha.com/内にある検索サイトから探してみましょう。
インターネットでがんの在宅医療に強いお医者さん検索する場合
- 在宅医療をしてくれる全国のお医者さん検索:https://n-hha.com/search.html
- 在宅ケアデータベース(看取り実績やがん特有の鎮静剤使用ができるか?などの記載がしてある):http://www.homehospice.jp/search/findcare/index/state_cd:1
※訪問看護ステーション併設の診療所や病院であれば、情報の連携が同法人内なのでスムーズです。
法人が違う場合でも、お医者さんがいつも依頼している訪問看護ステーションであれば、安心です。「先生がいつもお使いの訪問看護ステーションはどこですか?」とお聞きすると教えてくださいます。
在宅医療を支える主要な医療・介護サービス
よく聞かれる患者様やご家族の不安として、
「ご家族や患者様がケアをできるのか?」
「急変した時の対応をどうしたらいいのか?」
「介護が大変になったらどうしよう?」などが挙げられました。
そこで介護保険サービスを利用することで、自宅にいながら介護の負担を減らすことができます。
下記のサービスはケアマネージャーが調整してくれます。
介護保険サービスを利用して介護負担を減らす方法
- 福祉用具のレンタル:ベッドや車いす、歩行器などの介護用品がレンタルできる。
- 訪問介護(いわゆるヘルパー):掃除、洗濯、買い物など家事の一部を手伝ってもらえる。【同居家族がいる場合は使用できないサービスがあるのでケアマネへ相談してください】
- 訪問入浴:自宅での入浴を手伝ってくれる。自宅の浴室使用が難しい場合は、浴槽ごと持ってくる。
- 通所介護(いわゆるデイサービス):医療ケアが必要な方(パウチ、尿カテ、胃ろうなど)への配慮と、食事や入浴、トイレの介助をしてくれる。
※末期がんの患者様ように、厚生労働省が指定する特定疾患(難病)に指定されている場合に限り、介護保険サービスが利用できます。
在宅医療を受ける心構えは?
患者様はなぜ、自宅での最期を選択したのか?
私の担当した患者様は、下記の理由が多かったです。
・苦痛を伴う治療や慣れない環境(病院)での生活を望まない。
・患者様が住み慣れた自宅でご家族に見守られ、安心したい。
という声がありました。新型コロナの感染予防で病棟のお見舞いが制限されるため、最期に大切な家族・親戚・友人に会いたいからと退院した方もここ数年は多くいました。
やはり、住み慣れた家やなじみの家族や知り合いの中、残された時間を共有したいという思いが在宅医療を選択したもっとも大きな理由になっていました。
安心して最期を迎えるために サービスを受ける以外にも大切なこと
必要な医療・介護サービスを決め、いざ受け始めても患者様の病気の進行により体調がだんだん悪くなってくると、患者様とそのご家族様は心理的、体力的な不安を抱きやすいものです。
また、「本当にこの治療方針、介護方針でいいのか?」と迷うことも多くあります。その際に大切な患者様の気持ちがきちんと汲まれるように、「人生会議」をお勧めしています。
人生会議はご存じですか?
自宅での最期を迎えるためには、訪問診療や訪問看護ステーションの力を借りることは必須ですが、もうひとつ大切なことがあります。それは「患者様の意思」「ご家族の意思」を共有するです。
『命の危険が迫った状態になると、約70%の方が医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えたりすることができなくなると言われています。』*1
『自らが希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいること、どこでどのような医療やケアを望むかを、自分自身で前もって考え、周囲の信頼できる人たちと話し合い、共有することが大切です』*2
引用 厚生労働省:「人生会議してみませんか」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html *1*2
アニメーション1「大切にしていることを信頼できる人へ話そう編」
「まだ自分が死んだときのことを家族に話すなんて不謹慎」「まだ考えたくない」というお気持ちはよくわかります。
次に、意思決定とその表明が大切だと感じた私の体験談をお伝えします。
訪問看護ステーションでターミナルケアを勤務経験した私の体験談
前述した「患者様の意思がきちんと汲まれるように人生会議をお勧めする理由。」についてお伝えします。私が訪問看護ステーションに勤務中に、しばしばこのようなケースがでていました。
患者様の意思が叶わず、最期は病院で旅立つケース
「最後はご自宅で」と患者様やご家族様と介護・医療チームで方針が決められていたのに、救急車で病院に搬送され、病院でお亡くなりになるというケースです。
・「キーパーソン」と「主介護者」が異なり、双方の意見が合わない。
・患者様のみが在宅を強く望んでいたが、ご家族様の介護負担があり、途中で双方の意見が合わなくなった。
・意思表示の明確な時期に患者様の意見が聞けず、そのまま急変し、ご家族様がパニックになる。
・主介護者が高齢などで看取りは希望しているものの、終末期の病態が十分に理解できず、急変した際にパニックになる。
・患者様の希望で急遽退院し、ご家族の在宅での準備や心構えができていなかった。
本人様が「どんなに具合が悪くなっても自宅に居たい」という意思が周知されていない、周知される前に急変すると、ご家族様がパニックになり、在宅医や訪問看護ステーションに相談する前に、救急車を要請するという流れが多かった印象です。
未然にこのような状況を防ぐためには、「人生会議」を行い、患者様やご家族様の意見のすり合わせを数回(一回で済まない場合が多い)行い、特にご家族様がパニックにならないように急変した時の対応検討が必要と感じました。
困難を乗り越えて、感謝し、されながら旅立つ患者様
一方で患者様とご家族様の意思の元、深い愛情の中、ご自宅にて安らかに旅立つ方も多くいらっしゃいました。
亡くなる一週間前にたくさんの友人や知人、親戚が自宅に訪れ、温かい会話に包まれて眠るように旅立たれる患者様。家族の顔や手料理の味、趣味もできて、苦しいながらも安心した表情や会話を楽しむ笑顔もが見られました。
ご遺族への弔問の際は、「最期は家で看取れてよかった」とお話しされる方が圧倒的に多いです。
ご遺族は、愛するご家族を失った喪失感・寂しさは残るものの、闘病を支える中、患者様への深い絆が生まれ、人生を共にした思い出がよみがえり、看取れたという達成感をお話になられることがあります。
そんなご遺族様の会話から、改めて「自宅のお看取りするということが、いかに意義深いことであるか」がわかりました。
ここまでご覧頂き、ありがとうございました。